自分一人では何もできないけれど、
スタッフといっしょにトールファームを盛り上げていきたい。

田川喬之

もの心がついた頃にはすでに牛がそばにいて。小学生の頃は、父が牛のまわりをいつも動いているなあ、という印象でした。中学生になってから、ある日、父が自分のやりたいことをやっていいから、といったようなことをぽろっと口にしたんです。将来は、といった話をしたわけではなかったんですけどね。
そのあたりから、だんだん将来について意識をするようになりました。実業高校で畜産を学び、実際に酪農ってどうなのか、牛を知ったとき気持ちのうえでどんな変化が起こるのか、を考え始めました。家業を継ぐなら、と、この業界の厳しさを知るにつれ、もっと酪農について知りたい、という気持ちが強くなりましたね。
中国四国酪農大学校で酪農を勉強することを決めたのは、高校3年生になってからです。それまでは部活でサッカーばっかりやってました。将来のことはほとんど考えてなかったですね。高校生のときは、家の仕事を手伝うことも、牛に触れることもなかったんです。当時、家の仕事がだんだん大きくなっているな、と感じていました。大きくなっているということは、儲かっているのかな、お金があるのかな、と。いろんなことに取り組んでいる父を見て、事業を伸ばせる職業なのかな、と思いましたね。

牛を見る技術を身につけたい

 

大学に入ってから、生き物、牛を飼うことの難しさ、大切さを学びました。研修があるんですが、自分の好きな場所を3ヵ所選んで2カ月間ずつ研修することができるんです。それで、僕の場合は3ヵ所とも北海道を選びました。めったに行けないところですし、いざ行くとなると費用もかかりますから北海道内で移動すればすむのでいいかな、と。

研修先に選んだ牧場は、家と同じような規模のところで、やり方は違うけれども、参考になるんじゃないか、と思ったところが1軒目。2軒目は、共進会で優秀な子牛を輩出している牧場で勉強になるだろうなと思って選びました。そこでは、子牛を見ただけでいい牛かどうかを見極められるという方がいて、そういう技術は身につけたいと思いましたね。3軒目は、乳牛の育成のみを行なっているところでした。

3軒すべてに共通しているのは、牛のために何をどうするかということをつねに考えて対処している、ということでしたね。

トールファームに入社して最初に担当したのは子牛の世話です。子牛が生まれてどう育っていくかを近くで見てきました。子牛を見ていると、愛着がわくし、さらに好きになりましたね。子牛担当は半年で終わって、搾乳の作業を覚えて。その間に、家畜人工授精師の資格を取得しました。

母牛を妊娠させて、子牛を産ませるという過程があるんですが、これが簡単にはいかないんです。まず発情しないといけない。その時期というのは、1ヵ月に1回あるんですが、それを見逃してしまうと、種付、出産というタイミングがずれてしまいます。タイミングがずれてしまうと、ムダが生じて、最終的に生乳を得るというところまでたどりつけないこともあり得ます。いまは、牛の発情期の行動を監視できる体制があるので、そういうことはないのですが、それほど大切なことだということです。 発情したということを確認して、タイミングを見て種付をします。種付をするとおよそ280日で分娩します。種付けが成功しているかどうかは、獣医さんに確認してもらうようにしています。種付したけれども受胎していなかったということもあり得ますので。実際、いろいろな条件があります。過肥や繁殖障害といったこともあり、平均すると受胎率は30%くらいでしょうか。

子牛が生まれた後も、乳を飲んでくれるか、事故がないかなど、監視していないといけません。リスクマネジメントをしっかりやらないと、計画通りにはならないですね。

習慣で動く牛をコントロールする

毎朝、4時に起きます。飼料を与えて、搾乳ロボットがちゃんと稼働しているかどうか確認します。牛という動物は、習慣化した行動をとる動物なんですね。それに個性がいろいろあります。たとえば搾乳ロボットは2台あるのですが、1号機には何の抵抗もなく入っていくのに、2号機には絶対に入らないとかですね。また、人が牛をロボットまで誘導しなくても、自分で定期的に入ってくれて自動的に搾乳できるようにしていく、ということもあります。人が入って誘導するといったことを毎度やってしまうと、それに慣れてしまって人が誘導しないと動かなくなってしまうんですね。

飼料を与えたり、飼槽のなかの飼料を寄せて牛が食べやすいようにしたり。あとは事故を起こしていないか見ていますね。乳牛は乳を出す際に、体内のカルシウムを大量に消費します。乳に含ませるためなんですね。牛がカルシウム不足に陥ってしまうことがあります。すると、牛の足は大きな体を支えきれなくなって、立てなくなってしまうことがあります。そういう牛がいないか確認して、もしそういうことになっていたら、適切に対処します。

6時半くらいに獣医の先生が来て、具合の悪い牛の治療をします。その後、みんなとミーティングを行ないます。

13時半くらいから、餌やりなどをして、18時には、家に帰ります。

でも、21時か22時には、再び餌やりを行ないます。これは、いまは主に嫁にやってもらっていますが。

12歳の息子が、将来は牧場の仕事をする、と言っていまして。うれしかったですね。娘も同様に牧場の仕事をやりたいと言っています。ですから、ここで得た経験や知識をきちんと伝えていきたいと思います。牛は経済動物ですから、環境のなかでの取捨選択がすごく大切です。何を取って、何を捨てるか。その選択肢を誤るとたいへんなことになりますから。でも、未経験のことがあると新しい選択の答え合わせをいずれすることになります。その結果が、一つの経験になるわけですね。コストを考えながら、やり方をいろいろと考えてやっていきたいと思っています。

自分で考えて行動できるスタッフに

スタッフには、自分で考えて行動できるようになってほしいですね。何かをしてほしいなあ、というときに、やっておきましたと言ってくれるようになってほしいと思いますね。そして10年後には、いまの倍の規模になるようやっていきたいですね。もちろん、これは従業員がいてこそできること。自分一人ではできません。そうやっていい会社にしていくことで会社に関わる人も幸せになれる、ということを実現していきたいですね。

社長は努力の人

社長は努力の人ですね。火がつくと行動力を発揮してどんどん突き進んでいく人。それは、仕事も遊びも。また、話術というのでしょうか、話に説得力がありますね。それに判断力に長けています。人脈も広いですね。こういう道を与えてくれて感謝しています。自分が子どもの頃はかまってもらえませんでしたが、そういった状況は子どもにはわからないですから。大人になってようやくわかりましたけどね。 とにかく、トールファームを盛り上げていくことをしっかりやっていきたいと思いますね。

(たがわ たかゆき 2024年5月インタビュー)

 
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